殿様千石たこ道中小説


オリジナル小説<三匹の狼>


第一話「暗雲の 隙間に覗く 狼の眼」

 八代将軍徳川吉宗によってかろうじて保たれていた太平の世は1745年(延享二年)に 吉宗が将軍職を退いたことで崩壊し、再び混沌の時代を迎えようとしていた。 各国の大名と幕府の側用人の間で賄賂が横行し、農民達の生活はさらに厳しいものとなっていた。 そんな中、各国の大名の後ろ盾を受けて農民から税を取り立てるやくざ者が各地で力をつけるように なっていた。  延享三年春のある夜、当時関西で最大の勢力を持っていた大坂の黒翔組の五代目組長宗之助は 密かにふたりの息子を自分の部屋に呼び寄せた。 八畳ほどの薄暗い部屋の中、宗之助が中央に、その横に宗之助の長男である清之助が座っていた。 宗之助は真っ白な髭を生やし紺の着物を着た50代半ばのがっちりとした体型の男、 清之助は宗之助に負けないがっちりとした体型の20代後半の若者であった。 二人とも何も喋らず、庭の虫の声に耳を傾けていた。 半刻ほど過ぎた頃、何者かが足早に廊下を滑る気配が近づいてきた。 「鉄馬か、入れ」 宗之助が廊下に向かって声をかけると、音もなく部屋の入り口の障子が開いた。 「父上、遅れました」 大きな声と共に20代前半の緑色の着物を着た男が部屋に入ってきた。 体型は宗之助や清之助に比べて幾分華奢であるが、その眼は鋭い眼光を放っていた。 「その頬の傷はどうした、また誰かと喧嘩したんか?」 「いえ、これは…夜叉丸と魚を三枚におろしてる時に…」 「もうええ!お前が他の組のごろつきと毎日喧嘩に明け暮れていることは清之助から聞いとる。  今はまだうちの組の名前を恐れて組同士の抗争にはなってへんが、このままではいつ問題が  大きくなるや分からん」 「しかし父上、最近の奴らは大きな権力を盾に、やりたい放題です。  町の者が困っているのを黙って見ているわけには…」 「お前と夜叉丸はやくざとして甘すぎるんや。今日限りで組は破門や。どこでも好きな所へ行け!」 「…父上」 「もうお前は黒翔組の名前に縛られることはない。好きなだけ暴れてこい」 宗之助の口調が急に穏やかになった。 「あ…ありがとうございます」 鉄馬は深々と頭を下げた。宗之助は清之助のほうを見ると、これでいいのだなというように微笑んだ。 清之助は軽くうなづくと、鉄馬のほうに向き直った。 「鉄馬、お前と夜叉丸の力は大坂では右に出る者はいないほどや。  ゆえに時として他の者の運命をも変えてしまうことがある。力を使う時にはくれぐれも注意しろ」 「はい、兄上」  翌日の朝、まだ街は朝の霧に包まれている中、鉄馬は出立の準備をしていた。 「兄貴、待ってくださいよー!」 前がはだけたままの真っ赤な着物を着た背の高い男が奥から走り出てきた。 長い髪は頭の後ろで一つに束ね、肩から荷物と笠を掛けており、その目は子供のように澄んでいた。 この大男、夜叉丸は六歳の時に宗之助に拾われて以来、鉄馬の警護役として付き従っていた。 歳は鉄馬よりひとつ上だが、鉄馬のことを兄貴と呼んで慕っていた。 鉄馬も決して背が低くないが、それでも夜叉丸と並ぶと小さく見えた。 夜叉丸も慌てて鉄馬に並んで草履を履き始めた。 「なんで起こしてくれなかったんですかー」 「何回どついても起きへんかったんはお前やないか」 すでに草履を履き終えた鉄馬は、あきれたように言葉を吐き捨てると夜叉丸を残して外に出ていった。 夜叉丸がその後を小走りで追いかけていった。  その一部始終を柱の陰から見ていた二つの影があった。宗之助と清之助である。 「鉄馬の奴、どれだけ大きくなって帰ってきますかね」 「さあな。しかし我らの命、あやつにかかっているのかもしれんな。  しかし、『その時』が来るまで我らは我らのできることをするだけや…」 宗之助は屋敷の入り口から見える空を見上げた。黒い雲の間からかすかに朝やけの光が覗いていた。  その二日後、鉄馬と夜叉丸が山城国の山道を歩いていると二人の男が青白い顔で前から走ってきた。 「旅のお方、この先は行かんほうがええぞ。刀を持った覆面の男がいきなり斬りかかってきたんや」 「ほう、おもしろそうやな。なぁ兄貴」 「おお。俺も一度侍と喧嘩してみたかったんや」 鉄馬と夜叉丸は、あんぐりと口を開けた二人の男の間を足を速めて抜けていった。  曲がりくねった道を抜けるとすぐに、肩から血を流しながら覆面の男5人と斬りあっている侍が 目に入った。 「どう考えてもあの侍が不利やな。加勢するぞ」 「へい、兄貴!」 二人は荷物を放り出すと、覆面男達のほうに向かって突進していった。 不意を付かれた覆面男達は動揺を隠せなかった。 そのうちの二人が鉄馬達に斬りかかったが、一撃目をかわされて体勢を整える前にそれぞれ鳩尾に 強烈な一撃を入れられて後ろにひっくり返った。 あっと言う間にふたりの仲間を倒された覆面男達は、完全に戦意喪失した。 三対三になったとはいえ、鉄馬達の強さをみると勝ち目は少ないと悟ったのである。 「退け、退け!」 首領格の男が叫ぶと、覆面男達は一斉に後方にさがった。 倒れた男達も腹を押さえながら片手で刀を拾うと、ふらふらとした足取りで逃げていった。 「待て、追うな!」 鉄馬は覆面男を追おうとする夜叉丸を制すると、血を流して倒れている侍に駆け寄った。 侍の側には籠が転がっていた。おそらくさっき逃げてきた二人の男は籠屋だったのだろう。 「この男を麓まで運ぶ。お前は足を持て」 傷口が開かないように静かに侍を籠に乗せると、侍がうっすらと目を開けた。 「俺…はもうだ…めだ。こ…れを……ごふっ」 懐から血塗れの紙を取り出すと、鉄馬のほうに差し出した。 「おい、しっかりしろ。これをどうすればええんや?!」 侍はすでに息絶えていた。 紙は血で塗れていてほとんど何が書いてあるのか分かるらなかったが、この侍の正体が公儀の隠密で、 次の宿場町である長池について何か重大なことを訴える文であることが分かった。 「ここで引き返す訳にもいかんしな。長池に行くぞ」 「あんたの無念は俺らが晴らしてやる」 夜叉丸は荷物から大きめの布を取り出して侍の死体に掛けた。 あいかわず空には真っ黒な雲がたちこめる中、鉄馬と夜叉丸の眼は新たなる決意と怒りに燃えていた。


第二話「雲はれて 狼三匹 花一輪」

 山城国、長池の宿場町をふたりの渡世人風の男が歩いていた。 ひとりは黒翔組の五代目組長宗之助の次男、鉄馬。鋭い目つきで整った顔立ちの若者である。 緑色の着物に身を包み、頬には小さな傷があった。 もうひとりは鉄馬の弟分、夜叉丸。長い髪の毛を頭の後ろで束ねた長身の若者である。 ただでさえ目立つ背の高さに加えて真っ赤な着物を着ているため、かなり周囲の目をひいていた。  夜叉丸は子供のような好奇心を露わにした目できょろきょろと辺りを見渡して歩いていると、 夜叉丸の腰ほどしかない背の高さの少女とぶつかった。 「あ、ごめん。大丈夫か?」 夜叉丸が声を掛けると、少女が潤んだ瞳で夜叉丸を見上げた。 「助けてください!」 思わず守ってあげたくなるような華奢な体つきをした、色白のかわいい少女だった。 夜叉丸が少女の走ってきた方向を見ると、典型的な悪人顔をした数人の男が走ってきた。 「まかせてください、お嬢さん。兄貴、ちょちょいのちょいと片づけましょう」 精一杯かっこいい声で言って鉄馬のほうを見ると、 「あんな奴ら、お前一人で充分やろ」 と予想していなかった答えが返ってきた。 さらに、夜叉丸に「先に行ってる」と言い残すと鉄馬は細い路地に入っていった。 夜叉丸は六歳の時に鉄馬と会ってから常に行動を共にしてきたが、 今回のように突き放されたのは初めての経験であった。 「やきもちか?」などと思いながら混乱していると、 「おい、お雪。お前のおやじの黒虎はいつになったら俺らに献上金を払うんや!」 と悪人顔に似合ったガラガラ声が響いた。 「おい若造!邪魔や、どけ!」 悪人顔のひとりが夜叉丸を払いのけようとすると、夜叉丸がその腕を掴み、 心は上の空といった焦点の合わない目で悪人顔を殴り飛ばした。 残りの男達はしばらくあっけにとられていたが、慌てて懐からドスを取り出して夜叉丸を取り囲んだ。 周りの通行人は叫び声をあげながら、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。 「やっちまえ!」 と男達は一斉に夜叉丸に襲いかかった。  一方、鉄馬は行くあてがあるのかないのか分からないというようにいくつかの路地を曲がって 人通りのまったくない道に入っていった。 「さて、もうええやろ。ええかげんに姿を見せろ!」 鉄馬は立ち止まって大声を上げた。 「ほう、気づいてたのか」 すると鉄馬の前後から、朝の覆面男5人組が姿をあらわした。 「先ほどは不意をつかれたが、今度はそうはいかんぞ」 覆面男達は一斉に刀を抜き、徐々に鉄馬を囲む包囲網を小さくしていった。 「ふっ。夜叉丸が俺から離れる機会を狙っていたくせによく言うわ」 鉄馬は鼻でわらった。 「ほざけ、お前一人で我ら5人を相手に何ができる!」 と鉄馬の正面にいた首領格の男が斬りかかった。 鉄馬は紙一重で避けると、男の手首に手刀を当てた。 男が思わず手から離した刀を空中で掴むと、そのまま逆手に持って斬りあげた。 男は肩口を斬られ、真っ赤な血が噴き出した。 「ぐああ!」という叫び声とほぼ同時に「きゃああああ!」という悲鳴が上がった。 たまたま通りがかった町娘が、男の斬られるのを見て慌てて逃げ出したのである。 「ちい、邪魔が入ったか。退け!」 という首領格の男の声と共に、覆面男達はまた一斉に去っていった。 鉄馬もその場に刀を投げ捨てると、男達と逆の方に足早に立ち去った。  夜叉丸が我に返ると、周りには男達が倒れていた。 すべて夜叉丸が無意識のうちに倒したのであった。 通行人と共に、あのかわいい娘もどこかに逃げていなくなっていた。 よく考えると、鉄馬は「先に行ってる」と言っただけで、何処に行くか聞いていなかった。 何をすればいいのか迷っていると、急にお腹が鳴りだした。 朝から何も食べていなかったことを思い出し、何か食べながら考えようと、懐の財布に手を伸ばした。 「あれ、なんで無いんや」 確かに懐に入れておいた財布が、いつの間にか消えてなくなっているのである。 慌てて周りを見渡すが、どこにも見あたらない。夜叉丸は必死に記憶をたどった。 「あ、あの時…」 少女、お雪とぶつかった時にスられたのだ。そうとしか考えられなかった。 飯が食べられないと分かると、一気に空腹感が増した。 「兄貴ー、何処におるんやー」 夜叉丸は悲しげな声をあげた。  「おい、黒虎の旦那。この長屋に入ったら海城一家に献上金を出すってのがこの町のきまりなんや。  あんたはよそ者やったから知らんかったんかもしれんけど、きまりは守らなな」 海城一家の親分、弥兵衛が「黒虎」と呼ばれた紺色の着物の男に猫なで声で話しかけていた。 その優しい声とは裏腹に、ドスを手にした男達が黒虎の周りを取り囲んでいた。 「すいません。おとっつあんは病気なんです。許してください」 黒虎の身体を支えるようにして、娘のお雪が弥兵衛に必死に懇願していた。 「嘘つくな!お前を昨日酒場で見たって奴がおるんや。それなら代わりに娘をもらって行くぞ」 と、男のひとりがお雪の腕を掴もうとした。 そのとき黒虎の瞳がギラッと光り、男の身体は宙を舞っていた。 「俺は今、病み上がりで手加減ができねぇんだよ。殺されたくねぇなら帰んな」 とても病み上がりの男が出せるような拳ではなかった。 あまりの拳の速さに海城一家の男達は何が起こったのか理解できず、思わず後ずさった。 「やっと見つけたぞ、嬢ちゃん」 そこへ、悪人顔のひとりを道案内に引っぱってきた夜叉丸が現れた。 「おい、俺の金は何処へやった」 夜叉丸は海城一家の連中には目もくれず、お雪のもとへ走り寄った。 「ああ、お前さんの金だったのか。お雪に頼んで昨日の酒代のツケに廻してもらった。すまねえ」 お雪に掴みかからんとする夜叉丸を制し、代わりに黒虎があっけらかんと答えた。 弥兵衛はやっぱり病気だったというのは嘘かと思いながらも、 夜叉丸と黒虎が互いに潰し合うことを期待して何も言わなかった。 「てめえ、食い物の恨みは恐ろしいぞ!俺と勝負しろ!!」 夜叉丸は髪を逆立てて黒虎に向かって怒鳴った。 「ああ、いいぜ。でも歳の差のハンデがあるだろ。これ使っていいか?」 黒虎は入り口に立て掛けてあった短い筒を取りだした。 「ええから早くしろ。こっちは腹が減ってイライラしてるんや」 「じゃあ、遠慮なくいかしてもらうぜ」 黒虎が筒を左右に振ると、筒の両端から鋭い刃が飛び出した。 「何ィ?!」 夜叉丸は慌てて背後に飛び退いたが、刃は夜叉丸の着物の端を切り裂いた。 さらに続く黒虎の激しい突きを夜叉丸はかわすのが精一杯だった。 黒虎達を囲んでいた海城一家は、あまりの迫力に囲みを解いた。 ついに夜叉丸は長屋の隅に追いつめられた。 「まさか仕込み槍とはな…。まったく人をだますのが好きな親子や…」 「俺が手加減してなかったらお前は今ごろ串刺しだぜ」 「うっせえ。俺も腹さえ減ってなかったらお前なんかに苦戦するか!」 いちかばちか、夜叉丸が黒虎の懐に飛び込もうと身体を回転させたとき、 長屋の入り口で多数の足音が聞こえた。 「代官所の与力、島田政重である。皆の者、神妙にせい!」 島田政重と名乗る左肩に包帯を巻いた男を先頭に、代官所の役人達が次々と乗り込んできた。 いつの間にか長屋は代官所の役人に完全に包囲されていた。 海城一家の連中はその役人たちによって次々と捕らえられていった。 「おい、おかしいと思わねぇか。  代官所の連中は俺達に目もくれねぇし、海城一家もなんの抵抗もしやがらねぇ」 「どういうことや?」 「代官所と海城一家は『ぐる』ってことだよ。あ、そうだ。まだ半分ほど残ってるから返すぜ」 懐から財布を出すと夜叉丸に放り投げた。 「おー、愛しの我が財布ちゃん」 夜叉丸は財布に頬ずりした。  海城一家が代官所に連れて行かれてから二刻ほど過ぎた頃、 鉄馬は殺された隠密から託された血まみれの紙を手に持ち、代官所の前に立っていた。 ここに来れば何か分かるかもしれないと思ったからである。 代官所の入り口には多くの商人らしき人々が集まって、口々に何か喚いていた。 「なんで海城一家に取られた金が返ってこないんや?!」 「私らの金はどうなるんでっか?」 「うるさい、海城一家は金はすべて使ったと言っている。早く立ち去らねばお前らも捕らえるぞ!」 門番の一声で、商人達はしぶしぶ帰っていった。 事態を把握できずに鉄馬が途方に暮れていると、 爪楊枝を口にくわえた夜叉丸と黒虎、お雪の三人が歩いてきた。 「おー、兄貴!どうしたんや、こんなところで」 「いや、これを代官所に届けようと…」 鉄馬が血まみれの紙を前に出すと、黒虎の顔色が変わった。 「おい、どこでそれを?!」 黒虎の意外な反応に、鉄馬達は顔を見合わせた。  その夜、代官の石倉左兵衛、海城一家の弥兵衛、与力の島田政重の三人は代官所の一室で 密談していた。 「弥兵衛、そちも悪知恵が働くのぉ。各地の代官に取り入って町人どもから  税をむさぼり取り、わざと捕まったふりをして自分たちの足跡を消し去るとは」 「これもお代官様方のご協力があってのこと。さて、そろそろこの地もおさらばといきますか」 代官に酒を注ぎながら、弥兵衛は口元に嫌な笑みを浮かべた。 と、屋敷の庭のほうから突然大きな声が響いた。 「そうはいかんぞ」 驚いた政重が障子を勢いよく開けると、庭に三人の男が立っていた。 月光に照らされたその影は、鉄馬、夜叉丸、黒虎の三人であった。 鉄馬の姿が政重の目に入った途端、政重の顔色が変わった。 「与力、島田政重!お前の左肩に傷を付けた男の顔、まさか見忘れたわけないやろな。  お前らに殺された隠密の無念、晴らさせてもらうぜ!!」 鉄馬に睨まれた政重は「ぐぐう…」と低く唸った。 「海城一家、弥兵衛!  各地の代官に取り入って私腹を肥やし、お前を追っていた隠密までも代官に殺させるとは、  まったく呆れた奴やなぁ!!」 夜叉丸が一歩前に踏み出すと、弥兵衛は顔をひきつらせて後ずさりした。 「お前ら、ここを何処と思っている?!お前らの来るようなところではないわ!」 代官の石倉左兵衛が声を荒げて叫んだ。 「代官、石倉左兵衛!  代官という立場にありながら海城一家に肩入れして悪事を働いた罪、許し難い。  お前らに斬られた仲間になりかわり、公儀隠密黒田虎之介、貴様を地獄に送ってやる!!」 黒虎が持っていた筒を左右に振ると、筒の両端から鋭い刃が飛び出した。 「公儀隠密だと?!この地に潜入した隠密は、あの男だけではなかったのか!!  くっ、もはやこれまで。貴様らも地獄に道連れだ。皆の者、であえ!であえ!!」 代官の声を聞きつけ、奥から多数の配下の者達が飛び出してきた。 「妻と子がいる奴はさがっとけ!」 鉄馬は側にいた男を殴って刀を奪うと、一直線に与力政重に向かって走り出した。 他の二人もそれぞれの方向に散り、向かってくる相手を次々と斬っていった。 「政重、お前に殺された隠密の仇!」 まず政重が鉄馬の刃に倒れた。 「弥兵衛、覚悟!」 「あの世で後悔しろ!」 続いて夜叉丸と黒虎の刃が閃めいた。残された配下達は散り散りになって逃げていった。 「ふう、終わったな」 「おっさんが隠密やったとはな。隠密が盗みなんかやってええんか?」 「人聞きの悪い。あれは借りてるだけだぜ」 黒虎は苦しいいいわけをした。  翌日の朝、黒虎は鉄馬達にひとつの提案をした。 「おい、俺達と一緒に来ねえか?」 鉄馬と夜叉丸は顔を見合わせた。 「ほら、借りてる金も返さねえといけねぇだろ?」 「ん、まあべつに俺達もあてのない旅やから構わんけど…」 と鉄馬が答えたものの、夜叉丸はまた何か裏があるのではと乗り気ではなかった。 「よし、きまりだな」 「やったあ!」 お雪は飛び上がって喜んだ。 「お雪ちゃーん、もうお兄ちゃんのお財布盗ったらあかんよー」 夜叉丸がお雪の頭に手を乗せると、お雪は頬をふくらませた。 「子供扱いしないでよね。これでも私、もう18なんだから」 「じゅ、18?!俺と4歳しか変われへんやないか」 これには夜叉丸だけでなく鉄馬も驚いた。 「いや、でもお前もお雪に負けへんぐらい子供やぞ」 「兄貴ー」 鉄馬は空を見上げた。 ここ数日空に立ちこめていた黒い雲ははれ、頭上には一面の青空が広がっていた。 こうして奇妙な4人組の長い旅は幕を開けたのである。 第三話に続く


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